しろ鹿 脊振の山散歩

かけだし森林インストラクターのぶらぶら山散歩

星野村の森へ

先週は福岡県の星野村で代々林業をやっておられる森林インストラクターの先輩のお宅にお邪魔して100年を超えるスギの林を見学させていただきました。

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スギの植林を見学

日本の国土の約70%は森林でこのうちの約40%は人工林となっています。

この人工林は大半がスギ、ヒノキ、カラマツ等の針葉樹です。

特に最近はスギ、ヒノキの花粉症や枝打ちや間伐が行われていない暗い森に不法投棄のごみが放置されていたりでこれらの人工林はあまりいいイメージを持たれていないように感じます。

やはりみんな明るくて、新緑や紅葉が美しい落葉広葉樹の森が大好きですよね。

でも、ちゃんと管理されたスギやヒノキの林は地面(林床)まで光が入り、下草や低木が生え思いのほか美しい森になります。

とはいえ、どんな森が美しい人工林なのかやっぱる見てみないとわからないということで山をお持ちの先輩にお願いしてみんなで見学させていただくことになりました。

 

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まずはお宅にお邪魔して山ではなく星野茶のおいしいいただき方をレクチャーしていただきました。

お茶は低温(40~50℃)でゆっくり出すか最近では水出しのお茶に熱いお湯を注ぎ温度を調節して飲むのもいいそうです。

飲み比べさせていただきましたが、それぞれで風味が違っていずれも苦みがなく甘みが引き立っていました。

その後、午前中は比較的近場の山を見学しながら、枝打ちのやり方やスギの品種の話とかいろいろなお話を聞きました。

スギの苗も材の用途や地域の環境などに合わせて農作物のように品種の改良がおこなわれており、いろいろな品種があるそうです。

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山の上に新しい植林が見えます。

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4年生ほどのスギ

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樹齢100年を超えるスギ林

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幹周り3m弱のスギ

午後から山の奥まで林道を進み100年の森へ向かいます。

皆さん、樹齢100年を超えるスギの林ってどんなイメージでしょうか?

屋久島の森とは言わないまでも風格のある太い幹のスギがたくさんあるような感じじゃありませんか?

もちろん伐採後使用される材の用途などにもよりますが、単純に幹周りの太さというだけではなく、スギの森の良しあしはまずは樹高によるそうです。

見学させていただいた山には樹高30mを超えるスギが整然と並んでいて、中には幹周りが3mにもなるものもあります。

樹齢に対し幹がそれほど太くなっていないということは年輪が詰まっていてしっかりした美しい材が得られるということで、樹高が高いということはそれだけ長い材が得られるということになります。

そして枝打ちがしっかりされているため、森の中は明るく林床には草本類やアオキ、クロモジ、シロモジやアラカシの幼木が生え多様性があり、林床の土壌が大雨などによる流失から守られている状態がわかります。

 

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スギの樹冠

樹木の全体の葉の生えているいちばん外側の部分を「樹冠」といいます。

例えばスギやモミなどは何となく円錐形というイメージですが、この円錐形を形づくる外側の線や面の部分…わかりにくい?…が樹冠です。

普通同じ大きさの樹木同士だと生存競争でより自分の葉を広げるためにお互いの葉が重なってしまいますが、上の樹冠の写真を見るとスギは周辺のほかのスギの樹冠には重ならないようにお互いすみ分けている感じがします。(遠慮深い)

実はこの性格を利用して、はじめ密集させて植林することによって横に広がりすぎずに上にまっすぐ伸び、ある程度上に伸びたときに間伐をして間隔を広げてあげると今度は横に太くなっていくので木の上と下(末口と元口)であまり太さに差がないまっすぐな材を得ることができるようにしているそうです。

初めから樹木の間隔を十分離して植えるとしたからどんどん太くなって先のほうは細い円錐形の幹になってしまい、特に建築材料などには向かないものになってしまうそうです。

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台風で荒れた森

スギ、ヒノキは50~100年程度で最もいい材が取れるようになるのですが今、日本ではそのような収穫期にある山が人工林の50%にもなっているそうです。

この「財産」をこのままにしておくのはもったいないし、もちろん放置すれば災害の原因にもなるし環境の維持にも影響を及ぼします。

ところが、林業従事者も高齢化などで減少していることに加え木材価格の低下により利益が十分に得られないことなどでさらに従事者が減っています。

正直な話、いろいろな林業関係者の方に話を聞いても今すぐに劇的に林業の状況が好転する要素はあまり見られません。

一方、今宮崎の飫肥杉はそのブランド力で中国の富裕層の需要があり輸出が増えているという話も聞きます。

志を持った若い人たちが会社をつくって自伐型林業を行っているという例もあります。宮崎の例はともかく最近林業についた若い方々は強い「使命感」を持って、実際に動き始めているのかと思います。

林業は国土保全を担う重要な仕事であることを考えれば本当は国策として林業にかかわる対策をもっともっと行っていかなければいけないのでしょうが…やはりこういった実情に対し国民が知らない、興味がないので対策が後回しにされしまうという声も聞きます。

自分では林業に携わっているわけではないのでこういったことを伝えるのはなかなか難しいのですが何とか広く多くの人に知っていただいて、自ら林業に携わることはないにしても興味をもって、一緒に考えてくれる方が増えるだけでも少しでも事態が変わって状況が良い方向に向かうのではないかと思います。

美しいスギ林を見ながらそんなことを考えた1日でした。

 

ふくおか森林インストラクター会 | ふくおか森林インストラクター会は地域の人々に自然や森林の大切さを伝えています。 (forest-instructor-fukuoka.com)